本年度は、琉球列島の地域意識(アイデンティティ)と民俗地理の関係に関する基礎的な情報の蓄積を重点的に行った。具体的には、沖縄県公文書館でのマイクロフィルムや資料の閲覧・複写および、沖縄本島北部国頭村奥間における現地調査によるものである。後者においては、奥間区長ならびに区長経験者へのヒアリングを中心におこなった。その際のテーマは、第二次大戦前後の同区における米軍施設の敷設と日本への施政権返還(1972年)後の施設の一部返還に伴う地元の反応である。文書をはじめとする史資料と、現実にその歴史を生きた人々の証言をクロスチェックし、そのズレを検証していく作業であるが、これまで試みられなかった、地元(局所的地域)と、県ないしは琉球政府、そして米軍政府ないしは日本政府という、三層の主体が、それぞれ空間的スケールを異にしながら切り結んでいく過程の一端を明らかにし始めることができたといえよう。2月には、地域アイデンティティ研究の推進者であるデュースブルク大学(ドイツ)のブローテフォーゲル教授に面会し、この研究テーマに関するレヴューを受けた。英語圏や仏語圏に比して、独語圏では地域意識研究が盛んである。もっとも、地域意識研究が現在は批判的地政学という形をとり、社会理論の摂取と連動しながら発展しているということも、その際の議論の話題となった。なお、今年度の成果の一部は、来月『「郷土」の表象と実践(仮題)』として出版する予定であり、現在その校正作業を行っている。
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