本年度は前年に引き続き、1)地域アイデンティティ形成の機制に関する構造的問題と、2)琉球列島においてこの問題にかかわる事例の収集を行った。また、3)中間報告として国際学会で発表を行い、アジアならびに欧米の研究者達と意見交換し議論を行った。 1)についてはミクロな空間尺度である「郷土」について、その概念の歴史的形成過程とその後の展開の諸相の両面から検討した。概念形成については、1900年代中葉から内務省主導の「地方改良運動」にその嚆矢を認めることができる。その後1920年代に農村部の生活様式や民俗への関心がアカデミアの内外で顕著になる中、1930年代に文部省の主導で「郷土教育運動」が興り、「郷土」に関する教育が制度化されることとなる。これにより「教科」として「郷土」が教え込まれることとなった。郷土教育は身近な生活空間への愛着を謳い、それを喚起させるモジュールを装置化することを目的とし、連続的にモジュールの空間尺度を拡大し「皇道」に沿った国家/国土への情緒的な愛着心の涵養をも目指すものであった。この装置自体は、内務省による「地方改良運動」の際の、旧藩政村の様な直近の集落単位を越えた空間的範域である行政村に対する郷土表象の意識化の試みを基盤としているといえる。形式的な空間的範域への情動的なつながりをモジュール化し身体化する作業が反復されたというわけである。このモジュール化され身体化された(「郷土」もそのひとつである)「地域への愛着」はどの空間尺度においても作動する。 2)については、そのミクロなスケールについて確認するべく那覇市内において調査を行った。ただ、フィールド調査については、琉球列島全域をカバーすることを前提としているので、次年度の前半期に積極的に行うこととしたい。 3)については、8月に東京と大阪で開催された第3回批判地理学東アジア地域会議に出席し、報告を行うことでこのテーマについてアジアや欧米の地理学者たちと活発に議論することができた。
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