研究概要 |
本年度はまず前年度の基盤的調査・作業を継続した。すなわち国家単位の近世アトラスのモデルとして,イギリスのC.サクストン『アトラス』とJ.スピード『大英帝国の劇場』を選定し,両者の諸版を閲覧・調査し,複写ないしマイクロフィルム等で資料を収集した。同時に日本の近世地図帳に関しても,すでに復刻版が刊行されている『人国記』や『国郡全図』などの所収国絵図をデジタル撮影したほか,国立国会図書館が所蔵する『日本分形図』などの分国地図帖の諸版を閲覧・調査し,それぞれの収録国絵図を分析してデータベース化の基礎を構築した。 これと平行して、近世アトラスの総合的目録を作成し、さらにアトラス所収図の基礎データを抽出して、(1)各近世アトラスの序文やテクストに見られる作成者、編纂者たちの思想の解読,(2)地方図配列にみるアトラス構成の原理と変遷,(3)各地方図の図像,記号,地名,文字注記などの詳細な分析,(4)各地方図とそれに付載されたテクストとの照合、(5)現代の国別アトラスとの思想,構造の比較,などに着手した。 またこれらの成果を、平成15年8月に南アフリカ共和国ダーバン市で開催された第21回国際地図学会において'Mirror of the Nations'のタイトルで報告し、国家表象としてのアトラスを意味付けると同時に,イギリスの州別アトラスと日本の分国地図帖を比較した。その内容は高く評価され、国際地図学会が刊行した論文集"Cartographic Renaissance"に掲載された。 なお、国家単位のアトラスのモデルとなった近世の世界アトラスに関しても、A.オルテリウスの『世界劇場』を中心として分析を行い、研究発表を行った。
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