研究概要 |
本研究の目的は,機械金属工業が集積する地域(岩手県北上・花巻両市と山形県米沢市)を対象にして,産業集積の維持・活性化に対する産業支援諸制度の地域的な役割を,各地の独特の集積構造と産業支援システムとのインターフェースを考慮した地域間比較の手法によって,解明することにあった.その際,支援システムの形成・再構築,現実的な運用が経路依存性をもち,すぐれて地域的文脈(コンテクスト)に左右されることに着目して,実態に迫るとともに,比較検討した.明らかになった知見をまとめると,以下の通りである. 1.産業支援システム研究の個別化と地域間比較の恣意性を避けるために,共通の枠組みを検討した結果,県レベルでは1999年からの「地域プラットフォーム事業」を一つの基準として,ある程度まで有効であることが確認できた.ただし自治体では,現状ではケースバイケースで捉えざるをえない. 2.自治体における産業支援システムの形成・再構築では,地域的文脈がより強く反映されている.岩手県では,県レベルにおけるINS(岩手ネットワークフォーラム)という産学官連携のボランティア組織の主導性が認められ,市町村レベルでもその影響が顕著である.北上・花巻両市では,INSの影響と自治体主導という共通性をもちながらも,地域産業の発展経路の違いを反映して,花巻市では起業化支援,北上市では既存企業のレベルアップ支援という重点の違いがみられる.一方,山形県も県主導の産業支援が主体となっているが,岩手のような県全体を主導する組織はない.米沢市では,従来から民間による相互支援システムの発展がみられ,自治体によるそれが動き出したのは最近のことである.自治体レベルでは,自治体支援・地域産業の歴史と主体性,キーパーソン・キー組織の形成状況などが支援システムの再構築・運用の多様性を左右している.
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