1.20世紀前半期に中国の上海に設けられた東亜同文書院の学生の手になる中国調査の日誌と報告書を解読し、清書化する作業はそんなに容易なものではないが、それを進行させた。そのさい、あわせて書院の卒業生にインタビューを行ない、調査旅行の実際や記録の背景についての理解をすすめた。 2.その作業の中から若干のテーマを絞ることができた。そのうちの1つが、中国の20世紀前半期における近代化事業の展開に関する地域像とその地域システムについてである。日誌は実際の調査旅行中のさまざまな記録を含んでおり、その中から新たに建設中の自動車道路、公園、図書館、ホール、橋梁などについての記録が生々しく記されている。それはまぎれもなく近代化事業とみなすことができ、とりわけ1920年代に集中している。それらの事業をデータベース化してみると、それらからいくつかの特徴が明らかになった。その最も大きな特徴は、それらの諸事業が、いずれも新生の中央政府の手になるものではなく、各地方軍閥の手により、しかも相互に競い合うように行われていた点である。四川省のように複数の軍閥が支配した地域では各軍閥が各支配領域内をインフラ整備し、各軍閥がそれぞれ独立した1国家として完結するシステムを模索していたことがわかった。それは広い意味での戦略でもあるが、1930年代前半まで、中国の地域システムは軍閥によるほぼ省単位の構成で形成されていた。軍閥の中には日本の学校や軍に留学した指導者も多く、日本の近代化の体験し、その方式をモデルとして導入したケースも多いようにみえる。
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