1 共同風呂の市町村悉皆アンケート個票の整理によって、共同風呂・相互利用風呂(もらい風呂)・銭湯の全国分布図を作成した。その結果、もらい風呂が広域に分布するなかで、共同風呂は北九州を核心地域に主として西〜中部日本に見られる事象であるが、分布に粗密があるなど地域差が著しいことが明らかになった。共同風呂地域の形成が今後の課題となる。本地図は、入浴様式による民俗地図として評価されると考えるが、現段階では未発表である。 2 入浴の共同化に関する事例の集積については、次の3カ所で実施または実施継続中である。 (1)秋田県琴丘町・山内町ほか。冷泉利用等による共同風呂は、地域社会で維持されるなどコミニティ形成に寄与したが、非日常的な行為でかつ局地的な分布にとどまる。もっとも、北九州の共同風呂と類似する例も飛地状に見られ、生活文化の共通性を推測させる。 (2)愛媛県宇和町。集落別の聞き取り調査の整理から、町内全域で隣保規模を単位に共同風呂が見られ、地域社会のサブグループとしてその集団が機能したことが明らかになった。また、他の集落から共同化の利点が伝えられ、それが共同風呂成立の契機となったことを知り得た。 (3)福岡県山川町。共同風呂の核心地域の事例として調査を継続中である。この地域ではその成立が明治期と早く、また施設が充実しており、地域杜会でも中核的機能を果たした。 3 入浴の共同化の比較研究のため、韓国全羅北道全州市郊外の農村で調査を実施した。ここにはセマウル運動に伴う共同風呂の小屋が残存している。その形態は日本のそれに類似し、また建設にあたっては地域社会の協同体制がとられた。しかし、維持にあたっては地域社会が機能せず、その利用も非日常的で短期間で共同化が衰退した。
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