研究概要 |
潟を閉じる砂州や湾口に発達する砂嘴,及び海岸低地の海側端に伸びる砂礫堤を総称して,ここでは「海岸砂礫堤」と呼ぶ。一般に,海岸砂礫堤の最上部の高度は海進期の高海水準に対応しているものと考えられている。本研究では,現在の海水準に対応する後浜上限と砂礫堤最上部の比高(砂礫堤相対高度:h)を求めることにより,砂礫堤上部が形成された時期の海水準を推定することを目的としている。 本年度は西伊豆の明神池を閉じる礫州,駿河湾奥の千本松原砂州,鹿児島県甑島の長目の浜の調査を行った。昨年度の成果とあわせると,わが国の海岸砂礫堤は,hの沿岸方向の分布の違いから四つのタイプに分けられることがわかった。すなわち、(1)漂砂の下流方向ほどhが小さくなるタイプ(たとえば,西伊豆の明神池を閉じる砂礫州),(2)hが沿岸方向に変化しないタイプ(駿河湾奥の千本松原砂州,京都府天橋立砂州など),(3)沿岸方向のどの地点でもhがほぼ0(ゼロ)であるタイプ(鹿児島県甑島の長目の浜),そして,(4)hが沿岸方向に無秩序に変化するタイプである(たとえば,湧洞沼砂州)。 最初の(1)のタイプは海水準の低下とともに成長してきた砂礫堤,(2)は海水準が安定していた時期に形成された砂礫堤,(3)は海水準が現在のレベルに落ち着いてから形成された砂礫堤と推測される。これら(1)〜(3)のタイプはすべて礫質の堆積物で構成される。すなわち,一般に考えられているように,砂礫堤の最上部高度は必ずしも海進期の高海水準に対応しているものではないことがわかった。一方,(4)のタイプは砂質の砂礫堤であり,このタイプは砂礫堤が形成された後(あるいは形成と同時に)砂礫堤の上部が砂丘で覆われたものと考えられる。
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