本研究の目的は富士山の亜高山帯上部、樹木限界から森林限界にいたる移行帯における植物群落の動態とそれに及ぼす気候・地形的作用をはじめとする諸営力の解明にある。調査地域は北西斜面に設定し、樹木限界以下の群落調査・年輪調査、斜面計測・砂礫移動計測・土壌調査、気温・地温・日射の観測などを行なった。群落は樹木限界以下、樹高を漸増させるが決してリニアではなく不連続がある。これがいわゆる移行帯をつくり、樹木限界と森林限界を識別させる。それらは樹齢とは必ずしも対応せず、より環境決定的な側面の強いことが分かった。結果的にこの群落の発達程度の違いは、反作用としての土壌生成作用の違いも生み出し、高度間のより大きな環境傾度を作ることにつながっている。移行帯のなかの低木林に注目すると、樹高は若齢林と老齢林で低く、壮齢林で高い傾向があった。これは環境ストレスが時間とともに蓄積する結果であると思われる。調査地域斜面中にある階段状微地形は南西-北東の軸を持つ長楕円形の平坦面によって構成されていることが分かったが、平坦面上での物質移動は認められたものの、階段構造そのものは安定状態にあることが分かった。したがって高標高地に向かっての群落の発達は、この階段を通じてより確実に行なわれているものと思われる。すなわち、群落の定着にとってこの階段の急崖の存在は適潤環境の確保という点から重要である。当初の目標は群落形成プロセスと環境条件との関わりをさらに有機的に検討することにあったが、今後の課題となった。
|