高齢者が自立して安全に家事活動が行える環境づくりを考えるために、高齢者にやさしいにキッチン設備の提案を行うことを目的としている。本年度はキッチンでの様々な作業のうち、上肢を使う水洗作業及び棚への器物の収納などの作業における重心移動軌跡と足底圧の変動様態に着目し、併せて3次元動作解析による移動動作姿勢の特徴を把握することにより関連設備との関係を調べるとともに、若年者との相違点を明らかにした。 先ず、水洗作業時の水栓レバーと作業者の至適距離を導き出すため、両者の間隔を25〜50cmまで5cm間隔に6段階を設定し作業を行った結果から、高齢者は若年者に比べて全ての作業位置で重心軌跡が長く身体のブレの大きさを示し、40cmを越えると急激に増加する。肘関節の角度は高齢者のほうが小さくて上肢の伸展が少なく、35cm以遠では関節の伸展角度には変化がない。重心軌跡と動作角度及び感覚評価を併せ35〜40cmが至適な距離と考えられる。なお、現行キッチンの流し台水栓レバーの距離は40cm以上に設けられている例が多いことから、設備の改善の必要性が示唆された。次いで収納作業では、作業位置を棚高を床上8cm(最下限)から手の届く最上限-20cmまでを関節ごとに7段階に設定し、1.5kgの負荷物を収納する際の身体の変化を水栓作業と同様に測定した。重心移動軌跡は全ての棚高で高齢者の方が長く身体のブレが大きい。高い位置では上体を大きくそらして肘関節の伸展を補償し、最下限の位置では若年者は膝の屈伸が主導となり軌跡が垂直方向に移動しているのに対し、高齢者では膝の屈曲が少ない分上体を曲げて補償するため軌跡が弧を描く。全棚高を通じて腰高より下で両群の差が顕著に認められた。つまり、関節の屈伸を補うために重心軌跡が長くなり、特に膝より下の収納において負担が大きいことが明かとなった。
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