高齢者に優しいキッチン空間を提案することを目的として、先ず、アンケート調査により現在使用しているキッチン設備の問題点を把握し、その結果に基づいて、作業台下部のキャビネットへのものの出し入れ作業を高齢者、若年者それぞれに課し、作業時の動作特性や生理的負担、感覚評価などにより比較検討した。又、頻繁にリンクする流し台に付設している水栓の奥行きの位置についても同様の方法により検討した。 アンケートの結果、現状のキッチンでは収納スペースの不足と収納棚の高さや収納形態に関する不満か多くみられた。そこで、床上20cmから手を伸ばした最上限-20cmの高さまでを7段階に区切り、約2kgの負荷物を各高さ位置に出し入れする作業を課し、作業姿勢の特徴や重心軌跡の移動量などを調べた。その結果、高齢者の動作特性として、加齢による関節の硬化から肩、肘関節の開閉角度が若年者に比べて小さく、高い位置では肘関節の伸展が不十分な分を補うために上体や頭をそらし、不安定な姿勢になることが分かった。また、膝より下方の棚への収納時には、若年者は膝関節を屈曲して作業しているのに対し、高齢者は膝関節の屈曲は少なく、腰を曲げて上体の移動で作業をしており、感覚評価においても下方への収納の困難さが強く認められた。この傾向は特に従来から広く普及している開き扉方式において顕著に表れていた。様々な開閉方式の作業台下部キャビネット(開き扉、引き出し式扉、ドアポケット)で測定した結果から、引き出し式扉や新しい収納方式のドアポケット型は、重心の移動も少なく身体をあまり動かさないで作業できることが明らかにされた。ただし、新型の設備は横のラインを強調する傾向から、扉の幅が90cmにも上るものが多<重さの面で高齢者には負担が大きいため、幅を短くすることにより高齢者の身体的特性に適した設備と考えられる。
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