羊毛の防縮性に関して多くの研究開発がなされてきたが、最も効率的な塩素系防縮法に替る満足のいく方法は開発されていない。我々は、地球環境の保全という立場から、過酸化水素を用いる方法について研究を行ってきたが、予備検討の結果、水溶性高分子添加過酸化水素を用いることにより、良好な防縮性が得られること、さらに、その前処理として"細胞膜複合体(CMC)"の改質が一層の効果をもたらすことを見出した。そこで、まず、羊毛のフェルト収縮に及ぼすCMCの役割を明らかにすることを目的として、各種溶剤による抽出処理、CMC内の樹脂加工などによるCMC組織の改質の影響について検討を行った。 防縮性の評価には、羊毛繊維を水分とランダムな運動を与えると、スクールエッジが立ち上がり、繊維同士が絡み合い、フェルト化が起こるが、この現象を利用したフェルトボール試験により行った。CMCの改質には、種々の溶媒による抽出法により行った。 その結果、ある溶媒処理ではフェルトボールの長径、短径のいずれも増加し、収縮が抑制されることがわかった。このことから、溶媒抽出によっても防縮性が向上することが伺えた。しかし、溶媒抽出方法による防縮効果に差異は認められなかった。防縮性に効果が認められた溶媒は、羊毛繊維内の非ケラチンタンパク質と脂質成分を抽出することが知られており、その抽出部位が主にCMCからであることも明らかにされている。このことから、羊毛繊維のフエルト収縮に細胞膜複合体の力学的特性が深く関与していることは明らかである。
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