研究概要 |
葉酸が欠乏すると、DNA合成が阻害されて、細胞増殖に障害をおこすと考えられている。特に、細胞増殖が活発に行われている胎児期・乳児期に母体からの葉酸の供給が低下すると、出生子の健康状態に著しい影響を与えるものと推察される。そこで、ラットの妊娠期および授乳期に摂取する葉酸量の違いが、出生子の健康にどのような影響を与えるのかを検討した。妊娠が確認された雌ラットを3群に分け、葉酸を全く含まない欠乏食,飼料1kgあたり0.5mgの葉酸を含む低葉酸食,飼料1kgあたり8mgの葉酸を含む対照食をそれぞれ自由摂取させた。妊娠期および授乳期を通して同じ実験食を与えた。母ラットの体重増加は、特に授乳期でその差は大きく、低葉酸群では対照群の50%となり、葉酸欠乏群では体重が大きく減少した。授乳期終了時における母ラットの肝臓の葉酸誘導体量は、葉酸摂取量の減少に伴い、段階的に減少した。また、授乳期の終了時には、血漿ホモシステイン濃度の上昇,血管TBARSの増加,血漿中の一酸化窒素濃度の減少がおこることが判明した。各群の母ラットが出産した出生子数には差がなかったが、欠乏群では授乳期終了時に約30%しか生存しておらず、体重増加量も他の2群に比べて、著しく低かった。各群の出生子はいずれも貧血状態を呈しなかったが、低葉酸群,欠乏群では白血球数が有意に減少した。出生子の肝臓の葉酸誘導体量は、母ラットの葉酸摂取量が直接影響して、段階的に減少した。また出生子では、血漿および肝臓中のホモシステイン濃度の上昇と、肝臓TBARSの増加がおこり、葉酸摂取量の減少にともない、酸化が亢進している可能性が示唆された。さらに、出生子の肝臓,脾臓,骨髄において、カスパーゼ-3活性が上昇し、アポトーシスが誘導されることが明らかとなった。 以上のように、母ラットが妊娠期および授乳期に摂取する葉酸量の低下は、母体の健康のみならず、出生子の健康状態に大きく影響を与えるものと考えられた。
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