天然高分子イオン複合体を調製し食品資材としての利用を想定する過程には、エビ、カニなど甲殻類の生体成分として多量に存在する資源であり、薬理・生理活性でも着目されているキチン・キトサンについて、さらに食品機能材料の面から有効な利用を図ることを目的に、キトサンのもつ機能性、すなわち分子中にカチオン基をもつ数少ない高分子であることを活かす方法を開拓したいという期待がある。併せて、現在、多方面の分野で自然に優しく、自然と共存という点が強調されていることを配慮すると、架橋剤のような合成高分子を用いずに異なるイオンの高分子間でイオン反応による新たな機能性をもつ高分子の形成手法を確立することは、時代の流れに沿ったものと考えられる。 キトサンは形状、繰り返し分子量の異なる数種類の調製品を入手し試料に用いた。 カチオン性官能基のアミノ基(NH_2)を有するピラノース環構造の多糖類であるキトサンに対応して、アニオン性官能基のカルボキシル基(COOH)を有する多糖類のポリガラクツロン酸(PGRA)、ならびにポリペプチドのポリ(グルタミン酸)(PGMA)を複合体生成の組み合わせに選択した。 キトサンとPGRAを繰り返し単位モル比100:0から0:100の間で数段階に配合し、キトサンとPG-RAとを合わせた濃度が2wt%となるように20%ギ酸水溶液を加え、撹拌・脱泡した透明液をガラス板上にキャストし風乾後、洗浄・乾燥して得たフィルムを特性評価のサンプルとした。キトサンとPGMAとの組み合わせについては、同様の配合比で、少量の水に溶解したPGMAを、60%ギ酸水溶液に溶解したキトサン溶液中に加えて、キトサンとPGMAとを合わせた全体の濃度が2wt%となるようにし、以下同様な操作によりサンプルを調製した。 これらのサンプルについて、TMAを用いて吸水膨潤度、粘弾性を評価し、アミノ基(NH_2)とカルボキシル基(COOH)のバランスとの関係を関連づけて考察した。 今後はカルボキシメチルセルロース(CMC)、アルギン酸、ポリ(リジン)等の高分子についても組み合わせを考え、食品資材の対象としていきたい。
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