本研究は天然に存在するカチオン基をもつ高分子とアニオン基をもつ高分子の組み合わせにより天然高分子イオン複合体を架橘剤を用いずに調製し、将来食品資材として利用することを目的とするものである。基礎的な性状を捉えることを目的としたものである。分子内にカチオン基をもつ数少ない高分子物質として、えび、かに等の甲羅に多量に存在するキトサンがある。本研究ではキトサンは共和テクノス(株)製の性状の異なる3種類の中からフローナックNを選択し、ポリ(リジン)はチッソ(株)製の25%水溶液を選んだ。アニオン性官能基をもつ多糖類としてはカルボキシメチルセルロース(=CMC)をエーテル置換度の異なる3種類の中からCMC1150(エーテル置換度0.72)を選択し、併せてポリガラクツロン酸(PGRA)〔ICN Biomedicals Inc.〕、アルギン酸〔(株)和光純薬製)、カラクツロンン酸1水和物は〔Fluka Inc.スイス製〕を用いた。各々繰り返し単位モル比100:0から0:100の間で数段階に配合したゾルからキャスト法でフィルムを調製し、フィルム性に関して検討した結果、フローナックNとCMC1150の組み合わせで最も顕著な保形性のある透明なフィルムとなった。ポリガラクツロン酸については、繰り返し単位分子量が全体の30%まではフローナックNとの間で均質ゾルになり、フィルム化が可能であった。得られたポリイオンコンプレックスの機械的物性について、TMA/SS-6100(平成14年度に科学研究費補助金の交付で購入した装置)を用いて、一定時間浸漬中のフィルム吸水による膨潤度を膜の厚さの変化から測定した。数種の組み合わせのうち、フローナックN/CMC1150の組み合わせで、8/2のとき最も顕著な膨潤度を示し、吸水後の保形性も高かった。これらのフィルムをIRスペクトル測定した結果、8/2〜7/3のコンプレックスフィルムには、新たな吸収パターンがみられた。本結果から、多糖類同士のカチオン性及びアニオン性ポリマーの組み合わせによるフィルムは、その配合比によって各々特長ある吸水性と保形性を示したことから食品資材としての実用化が期待される。
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