研究概要 |
生体内、とくに脳における一酸化窒素(NO)レベルを上昇させるNO供与剤(sodium nitroprusside ; SNP)とL-アルギニン(L-Arg)、そして逆に低下させるNO合成酵素(NOS)阻害剤(aminoguanidine ; AG)を使用して以下の実験を行った。これらの薬物の非存在下と存在下において、1型糖尿病モデルラット(ストレプトゾトシン投与により作成)を用いて、小動物行動解析装置による行動観察(実験1)、並びに2型糖尿病マウスを用いて回転かご式運動量測定器による運動量測定を行った(実験2)。脳内マイクロダイアリシス実験を1型糖尿病モデルラットにおいて脳海馬のNOレベルを酸化窒素分析システムにより、神経伝達物質(セロトニン、ドーパミン)はマイクロダイアリシス・モノアミン分析システムを用いて行った(実験3)。さらにシャトルアボイダンスシステムを用いてSNPによるアルツハイマー型痴呆モデルラットの記憶改善実験を実施した(実験4)。結果:(実験1):糖尿病ラットと非糖尿病ラットにSNPとAGを血中濃度として0.1mMと1mMになるように腹腔内へ投与後、24時間の運動量とその日内リズムを測定した。SNPは活動期(暗期)運動量を糖尿病ラットで増加する傾向を示した。一方、AGは非糖尿病ラットでは抑制、糖尿病ラットでは増加するという相反する作用を示した。(実験2):SNPとL-Argを糖尿病マウス(KK/Ta)と対照の非糖尿病マウス(C57/BL)に血中濃度として0.1mMと1mMになるように腹腔内へ投与後、2時間の自発運動量を測定した。SNPとL-Argは両群で濃度依存性に運動量を増加したが、糖尿病マウスでとくに顕著であった。(実験3):SNP(0.01mM,0.1mM,1mM)を透析液に混入した場合、濃度依存性に海馬においてNOを産生した。糖尿病ラットにおいてはとくに顕著で対照ラットの2〜3倍に達した。この結果はマウスでのSNPの作用を説明することが出来ると思われる。AGの場合はNO産生の抑制が期待されたが、予想とは逆に作用初期にNO産生の増大が観察された。(実験4):スコポラミン(5mg/kg)により健忘症を引き起こしたラットに対し、SNP(0.1mM〜10mM)は一時的には記憶改善効果をもたらした。
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