あらい調理の特徴は、アデノシン三リン酸レベルが高い、極めて鮮度の良い魚介類を利用することである。しかし、この特徴が、あらいを特定の地域でのみ提供される料理に限定している。あらい調理の可能性を広げるために、あらいの品質に及ぼす魚介の鮮度と調理条件の影響を検討することにした。 実験材料としては活スズキを用いた。活け締めしたスズキから背側普通節を切り出し、ポリ塩化ビニリデンシートで包装し、5℃の冷蔵庫で2日間貯蔵した。経時的に筋肉をサンプリングし、3mm幅にスライスし、あらい処理に供した。あらい処理条件は、次の5つである。(1):18℃の脱イオン水中で3分間撹拌、(2):47℃の脱イオン水中で20秒間撹拌、(3):18℃の100mMCaCl_2水溶液中で3分間撹拌、(4):18℃の10mMCaCl_2水溶液中で3分間撹拌、(5):18℃の1mMCaC1_2水溶液中で3分間撹拌。調製したあらいの品質は、官能検査、測色色差計による明度、硬直度、レオナーによる破断試験により評価した。 その結果、貯蔵0日および貯蔵0.5日の試料に関しては、いずれの処理条件でも、あらいを調製することができた。しかし、あらいの外観やテクスチャーは、処理条件により異なった。47℃処理あらい、100mMCaCl_2処理あらい、および10mMCaCl_2処理あらいでは、筋肉の硬直が強く、破断荷重が大きく、あらい処理により肉が著しく硬化した。貯蔵1日の試料に関しては、100mMCaCl_2処理あらいおよび10mMCaCl_2処理あらいにおいて、最も肉が硬化した。貯蔵2日の試料に関しては、全ての処理条件で肉は硬化せず、あらいにはならなかった。これらの実験結果より、あらい処理に用いる水に10mM濃度以上のカルシウムを添加すれば、極めて鮮度の高い試料を用いなくても、あらいを調製することが可能であることが明らかとなった。
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