研究概要 |
あらい処理水に10mM濃度以上のカルシウムを添加すると、極めて鮮度の高い魚介を用いなくても、あらいを調製することが可能なことを昨年度の研究において明らかにした。本年度は、筋肉収縮に関わる化学成分の変化を検討し、あらい処理水に添加したカルシウムが筋肉収縮の発現にどのような影響を及ぼしているのか、その解明を試みた。 実験材料としては、活スズキを用いた。活け締めしたスズキから背側普通筋を3mm幅にスライスし、あらい処理に供した。あらい処理条件は、次の5つである。(1):18℃の脱イオン水中で3分間撹拌、(2):47℃の脱イオン水中で20秒間撹拌、(3):18℃の100mMCaCl_2水溶液中で3分間撹拌、(4):18℃の10mMCaCl_2水溶液中で3分間撹拌、(5):18℃の1mMCaCl_2水溶液中で3分間撹拌。生肉および各あらい処理した肉は、6%過塩素酸で抽出してエキスを調製し、化学分析に供した。アデノシン三リン酸(ATP)は、高速液体クロマトグラフによりAsahipak GS-320カラムを用いて定量した。グルコースおよび乳酸は、酵素法により定量した。 その結果、即殺直後のスズキ背側普通筋中のATP,グルコースおよび乳酸の含量は、各々5μmol/g,2μmol/g,13μmol/gであった。いずれの試料もあらい処理により筋肉中のATP含量は減少し、乳酸含量は増加した。特に100mMCaCl_2処理あらいおよび10mMCaCl_2処理あらいにおいて乳酸の蓄積が顕著であり、あらい前の3倍に急増した。これらの結果から、あらい処理水に添加したカルシウムが、解糖の進行を促進することにより、筋肉収縮エネルギー源として使われるATPを多量に補給し、スズキ筋肉に強い収縮を引き起こしたと考えられた。
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