本研究は日本における金属文化財の歴史的変遷を明らかにする研究の一環として、古墳時代の青銅器に関して、その材料となった銅、スズ、鉛がどこからもたらされたかを明らかにしようとしている。産地推定の方法として鉛同位体比法を利用した。この方法の原理の確かさは各方面で受け入れられており、鉛同位体比は資料自身が持つ考古学的な意義付けに重要な役割を持つことが理解され、また期待されている。 本年度、測定に供された資料は島根県、岡山県、熊本県など始めとする各地から出土した銅鏡、銅剣など約100あり、それらの同位体比を測定した。資料を提供してくれた地方自治体などへは報告書という形でまとめて、出版の準備をしていただくことになった。その一つ例として、島根県の7世紀初頭と推定される、かわらけ古墳から出土した双龍環頭大刀の環頭の龍は青銅でできており、朝鮮半島中部の黄海側の材料である可能性を示した。しかし、大刀の鞘飾りその他は純銅であったため、同位体比は測定できなかった。この環頭の製作に使われた材料は千葉県の金鈴塚古墳、韓国の弥勒寺などの材料とも関連している可能性を示しており、この時代における材料の流通、人間の交流という面で島根県・千葉県・福岡県を始めとする日本における各地域の違いをどのように考えるかが考古学的に重要になってくる。本研究のまとめとして本補助金で測定された資料の鉛同位体比値だけでなく、古墳時代資料を中心とした今までに測定された資料に関しても資料集としてまとめてみた。 鉛同位体比の測定には東京文化財研究所所有の表面電離型質量分析計、産業技術総合研究所の表面電離型質量分析計、高知大学の海洋コア総合研究センターのICP質量分析計を利用した。
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