本年度は第一に、問題解決過程について代表者がこれまで構築してきた枠組みを、算数・数学の授業における個々の子どもの学習過程に援用することで、どのような視点が得られるかの検討が行われた。これにより、意味生成を支える学習者自身の問題意識が生成する過程を授業の中で捉えていくという方向性、また算数・数学的概念を学ぶ際に学習者がそれに対して用いる表現・表記の変容の過程を捉えていくという方向性などが見いだされた。 第二に、算数・数学の学習の中での意味生成についての枠組みを、子どもたちの実際の学習の様子からも検討するために、5つの異なる算数・数学の授業において1人の児童の様子だけをビデオで追ったデータの考察が試みられた。これを通して、子どもたちは授業の中で教師や友だちといった他者の考えに触れることで、アプロプリエーションの過程、つまり自分の意味と他者の意味とのハイブリッドな状態を生み出し、しかもこのハイブリッドの状態を変容させながら、新たなアイデアとの折り合いをつけている様子が見いだされた。 第三に、個々の子どもによる算数・数学の授業における意味生成の様子を縦断的にさらに考察するために、授業とその中での子どもの様子のビデオによる記録が行われた。算数の授業・1単元(16時間)について、授業全体の様子を固定のカメラで記録し、その中の抽出児童2名の様子を代表者と大学院生が手持ちのカメラで記録した。またこれとは別に、算数と数学の授業それぞれ5時間程度において、授業の様子とその中での1名の子どもの学習の様子が同様に大学院生により記録された。これらについて分析の作業が進められているところである。
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