研究課題
基盤研究(C)
本研究では構成主義的な認識論から出発し、他者の存在を前提とした社会的状況における算数・数学の学習においては多様な意味生成のレベルがあることを確認した上で、まず本研究の射程を、学習者の問題場面への意味生成と他者の発話への意味生成との相互作用から算数・数学的知識への意味生成が生ずる部分に定めた。次に算数・数学の授業を社会=文化的な状況と見なし、他者の発話により学習者の学習がどのような影響を受けるかを意味生成の観点から分析した。いくつかの授業における学習者をビデオで記録し分析した結果、場面に対する自らの意味生成において認識していた要素について、他者の発話の影響を受けてその要素を異なる文脈に置くことで場面に対する新たな意味を生成するという側面と、自らの場面への意味生成に影響を受けて、他者の発話に対する意味生成を行うという側面が観察された。算数・数学的知識を文化的ツールと捉え、学習をこれら文化的ツールのアプロプリエーションの過程として考える視点を導入し、上述のような他者の発話の影響を伴う意味生成過程をさらに分析した。新たに採取された4〜5時間にわたる学習過程を分析した結果、文化的ツールのアプロプリエーションという観点から見た場合、上述のような他者の発話の影響は、新旧のアイデアが混交したハイブリッドの形成という形をとることが示された。またハイブリッドの形での他者の生成した意味の取り込みはタイムラグを伴うこと、他者の意味をより多く反映したハイブリッドの形成のためには、学習者自身が自らの生成した意味が生存可能ではないことを認識していることが必要であることが観察された。こうした意味生成の特徴を考慮しながら、1単元にわたる学習過程を分析し、そこからハイブリッドにおいて混交した複数のアイデアを分離して学習者に意識させたり、それらを関係づけるという支援のあり方を示した。
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