創造性教育は、その必要性を主張した論述や研究は多いが、実践レベルで創造性教育を行っている理科教育研究はわずかである。この創造性教育を阻む要因は何であるかを、文化継承の理科教育の機能と学習指導要領の制約にあることを示した。しかし、創造性育成が現代的な教育課題であることを示し、創造性評価法の確立が大切であるという立場をとった。そこで、理科版創造的思考検査の作成を試みた。この検査は、拡散的思考を調べるため7つの問題から構成されたものである。問題作成の留意点は、理科の内容を取り上げ、思考を巡らせて発想を反映させるような問いかけをすることとした。この検査は、流暢性、柔軟性、独創性の下位尺度で得点化し、他の認知特性と実証的に比較できる。具体的な理科教育研究としては、小学校5年「ものの溶けかた」の授業実践を取り上げ、児童の予想活動と創造的思考の関係を明らかにした研究と、中学生の理科学力と創造的思考力の関係を探った研究を行った。前者の研究では、単元の中での3つの予想活動における児童反応を収集した。授業に先立ち、理科版創造的思考検査を行った。その結果、高創造群は、深く考えた予想をしていること、また、類推を多く採用していることなどの知見を得ることができた。後者の研究では、中学理科の知識理解や応用力を調べる学力テストと理科版創造的思考検査を行って比較した。その結果、学力下位群では創造的思考と学力が正の相関を示し、学力中位群では負の相関、学力上位群では無相関を示した。これは、創造的思考と学力(知識理解・応用力)は独立する能力であるが、しかし、低学力者では両能力に分化が見られないと解釈できる、という興味ある知見を得ることとなった。
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