研究概要 |
3年間にわたる本研究の目的は,数学的一般化の視座から,学習過程を記述する理論的枠組みを開発するととともに,教授過程をデザインする規範的枠組みを開発することにある。すなわち,本研究では,数学的認識を一種の記号過程とみなしながら,記号それ自体を対象化する認知メカニズムを明らかにする。その上で,この「記号の対象化」がその後の一般化に果たす役割を明らかにする。具体的には小数除と分数除を題材としながら,両者の一般化の質的相違をまず明確にした上で,さらに分数除に関する学習過程を新たにデザインし,一般化の評価手法を開発する。 このような3年間にわたる研究目的ならびに研究計画に照らしながら,2年目の本年度については,一般化に基づく学習過程をデザインするための基礎的枠組みを構築した。本年度の研究で注目した先行研究は,Dorflerの一般化理論とWittmannの教授単元(Teaching Units)である。前者については,平成14年度の研究において.その精緻化を行い.「一般化分岐モデル」を提案している。そこで,本年度は,Wittmannの教授単元に関する理論を主に検討した。その結果,氏の教授単元の理論には,「目的(objective)」「教材(material)」「問題(problem)」「背景(background)」という教授単元を構成する基礎的枠組みはあるものの,それを実践に移すための具体的枠組みに欠けることが明らかになった。そのため,本研究で提案している「一般化分岐モデル」とWittmannの教授単元の理論的接続を図った。そして,この理論的枠組みに基づいて,教授単元「スターパターン」を開発し,実証的研究を行った。授業実践の分析を通じて,上述の理論的枠組みの有効性,妥当性を検証することができた。なお,本年度の研究成果については,日本教科教育学会誌において「The Incorporation of Generalization in Teaching Units」と題する論文として公表している。
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