研究概要 |
3年間にわたる本研究の目的は,数学的一般化の視座から,学習過程を記述する理論的枠組みを開発するととともに,教授過程をデザインする規範的枠組みを開発することにある。すなわち,本研究では,数学的認識を一種の記号過程とみなしながら,記号それ自体を対象化する認知メカニズムを明らかにする。その上で,この「記号の対象化」がその後の一般化に果たす役割を明らかにする。具体的には小数除と分数除を題材としながら,両者の一般化の質的相違をまず明確にした上で,さらに分数除に関する学習過程を新たにデザインし,一般化の評価手法を開発する。 このような3年間にわたる研究目的ならびに研究計画に照らしながら,最終年度である平成16年度の研究において,分数除の指導の改善について研究を行った。具体的には,平成14年度の研究では,Dorflerの一般化理論を批判的に考察しながら,「一般化分岐モデル」を新たに提案している。さらに,小数除と対比しながら,教育課程実施状況調査において課題の指摘されている分数除の理解過程に一般化分岐モデルを適用して,分数除の困難性の要因を明らかにしている。これらの研究成果をふまえ,平成16年度の研究では,比例的推論に基づく現行の分数除の指導の対案として,立式については比較のスキーマを前提とし,「×逆数」の説明には,既有の数学的知識を仮定する教授学的介入を提案した。また,一般化分岐モデルの下で,実験授業を設計・実施し,その授業過程の分析を通じて,上述の対案の有効性を実証した。 なお,平成16年度は,最終年度であるため,3年間の研究成果を総括し,報告書を作成した。
|