1.介護場面での理解とコミュニケーション技術としての評価 福祉現場での介護等に関わるスタッフの高齢難聴者の「聞こえ」に対する理解の程度とそれへの具体的な対応方法を調査し、職種・経験年数で分析した。その結果、全体としては的確な理解をしていないことにより高齢難聴者の障害が理解しずらいものであることがわかった。 しかし、経験を重ねることによってその対応方法がより妥当なものに変化していることがわかった。このことから対応方法は、経験から作り上げられる技術と見ることが可能であると思われた。 2.試行「声がけ」セットの設定 発声の試行を行う言葉として介護場面で多く用いられる「声がけ」の言葉を拾い出し「声がけ」の試行セットを設定した。 3.発声試行の方法 KAY社の音声分析プログラムをもちいてリアルタイムスペクトログラムの図を見ながら発声を試みてもうまく周波数の分布状態をコントロールすることが困難なことがわかった。 高齢者に聞き取りやすい発声法として腹式発声に可能性があるとの示唆があったので、施設における介護等のスタッフを被験者にしてリアルタイムスペクトログラムを見ながらできるだけ低い周波数の帯域で発声するように促す実験を行った。 4.試行結果 MDに録音し、KAY社の音声分析プログラム「マルチスピーチ」を使って長時間平均スペクトル(以下、LTA)を分析したLTAで求められた0から5000Hzまでの各周波数の声のエネルギーを500Hz毎に区分し、発声全体に占める各区間のエネルギーの百分率を求め、その変化が発声試行によって変化したかどうかを検討した。結果として、LTAの変化からは発声の変化を試みたものの実際の発声が低い周波数帯域に移行した状態は見られなかった。画面を見ることの発声への影響、腹式発声技術の獲得の困難さなどが原因と思われた。
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