1 谷本による成果 谷本個人の研究に関わる成果としては、彫刻家砂澤ビッキの来歴に関連して、近代アイヌ社会の史的位置づけに関する仕事が為された。『新旭川市史』第2巻(2002年刊)に分担執筆した「近文アイヌと給与予定地」では、砂澤の出身地域である近文地域(現・旭川市)における明治前期のアイヌ社会に関する社会・文化構造の分析を行い、地域における史的環境を跡付けることが出来た。また、「宗教からみる近世蝦夷地在地社会」では、前近代の蝦夷地のアイヌ社会に関する新たな視点を提示し、砂澤の過ごした近代アイヌ社会との差違とその特質を見通した。こうした視点は、15年度刊行予定の「琴似又市と幕末・維新期のアイヌ社会」で更に具体的に論及したところである。砂澤の技法の源流のひとつをなすアイヌ伝統工芸については、国際アイヌ文化シンポジウム(2002年8月)において「アイヌ文化と『自分稼』」として報告を行なった。 2 谷口による成果 谷口個人の研究に関わる成果としては、砂澤の作品の背景を地域的背景から展望した「地域の作家と鑑賞教育」を発表した。美術科教育の分野に地域・歴史の視点を含みこんだ仕事となっており、本研究課題の目指す成果の一里塚として位置づけることができよう。 3 谷本・谷口共同しての成果 両者の成果のすり合わせは、両者の研究視点に関する研究打ち合わせにおいて深められつつある。また、砂澤作品の現状所在調査に関しては合同して行なうことにより、複合的な成果が挙げられつつある。こうした学際的調査は15年度も継続して計画されており、歴史学・社会科教育学ならびに美術理論・美術科教育学双方からの総合的な成果が得られるものと期待される。
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