3年計画の初年度は、「スキーマ修正テスト開発についての研究」を行った。英文の新情報や矛盾する情報などを一文ずつ増やして提示し内省報告させ、スキーマ処理システムの変化をみた。連合王国ランカスター大学に滞在、Alderson教授のもと詳細に分析した結果、優れた読み手は、どのテキストに関しても、1)素早く適切なスキーマを把握し、2)正確に修正し、3)異なるスキーマにそれた場合でもより近いスキーマを活性化し、4)より柔軟に修正することが明らかとなった。一方、苦手な読み手は、固有名詞など特異なスキーマを頭に浮かべるため、その後の修正が困難になることが判明した。特にこの発見は、スキーマの活性化が、semantic memoryからではなく、episodic memoryからくる可能性を強く示唆している。苦手な読み手は個々の経験や知識を抽象化したり整理したりすることが出来ず、そのため、各自のエピソードと照らしあわせながら英文を読んでいくのではないかと考察される。 また、スキーマ修正と作動記憶容量の間には弱い相関が見られた。このことから、作動記憶容量が大きな読み手は、英文を読むという処理と、その内容を記憶(保持)するという2つの作業を容易に行うことが出来、スキーマを修正する際にも、作動記憶が大きな読み手ほど余裕を持って、時には複数のスキーマを同時に保持しながら、柔軟に変化していくことができると考えられる。さらに、英文読解力とスキーマ修正との間にも弱い相関が見られたが、2つの作業(処理と保持)の同時遂行において、英文読解力が処理を軽減し、スキーマの活性化を支えていると考えられる。 準備段階からの継続的な成果については、2つの学術雑誌と1冊の図書(分担)にまとめた。また、本年度の実証的な成果については大学英語教育学会第41回全国大会にて口頭発表し、現在、その発表内容を基に論文を執筆中である。
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