本研究では、優れた読み手と不得手な読み手のスキーマ修正プロセスの差異を明らかにし、その差異をもたらす要因を探るため「英文読解におけるスキーマ修正テスト」を開発した。一文毎に新情報や矛盾情報を与え、読み手がどのようにスキーマを取捨選択していくのかを報告させ、スキーマ処理システムの変化をみるものである。一方、何故そのような異なるスキーマを頭に描いたのか、あるいは同じスキーマを抱き続けるのか、内省的な報告を求め、考察を行った。 その結果、優れた読み手は、どのようなテキストに関しても、1)素早く適切なスキーマを把握し、2)正確にスキーマを修正し、3)異なるスキーマにそれた場合でもより近いスキーマを活性化し、4)より柔軟にスキーマを修正することが明らかとなった。 また、苦手な読み手は、固有名詞など特異なスキーマを頭に浮かべるため、その後の修正が困難になることが判明した。特にこの発見は、スキーマの活性化が、時にsemantic memoryからではなく、episodic memoryからくるのではないかとの、新たな仮説を生み出した。すなわち、苦手な読み手は、何らかの理由により、個々の経験や知識を抽象化したり、整理したりすることが出来ず、そのため、各自のエピソードと照らしあわせながら英文を読んでいくのではないかというものである。 さらに、スキーマ修正と作動記憶容量の間には相関が見られた。このことから、作動記憶容量が大きな読み手は、英文を読むという処理と、その英文内容を記憶(保持)するという2つの作業を容易に行うことが出来、スキーマを修正する際にも、作動記憶が大きな読み手ほど、余裕を持って時には複数のスキーマを同時に保持しながら、柔軟に変化していくことができると考えられる。また、英文読解力とスキーマ修正との間にも相関が見られた。2つの作業(処理と保持)の同時遂行において、英文読解力が処理を軽減し、スキーマの活性化を支えていると考えられる。
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