本研究は、アジア諸国の大学における家政学教育と、小・中・高等学校の家庭科教育の実態を把握し、日本における望ましい家政学教育及び家庭科教育のあり方を追究することを目的としたものである。研究方法は、各国のシラバス分析、家政学の中心的役割をもつ指導者(文部省関係、各国の家政学・家庭科教育担当者)へのインタビュー調査、小・中・高等学校における授業の分析等であり、結果は次の通りである。家庭科教育学の構造の核となる人間形成論において、人間として生きる力の総合的な資質の育成をめざし、そのために人間の生活をとりまく人的・物的、総合的環境を相互に制卸する力を培うことが各国の共通的な目標となっている。本研究におけるアジアの多くの国のシラバスには、自分の身の回りの生活の創造だけでなく、主体的な生活者として、地域社会まで視野を広げた生活文化・生活環境の創造が求められている。また、現在、主として日本と韓国を除く多くのアジアの家政学は、実践的総合科学としての内容をもつカリキュラムのもとで、家政学の教育的・社会的貢献が目指され、実践されている。シンガポール、香港等では、食教育や衣教育及び消費者教育中心のカリキュラムを通して、生活技能から価値判断や意思決定に至るまでの幅広いスキルの修得に重点がおかれている。また、家庭科のシラバスの変遷を見ると、生活技能中心から家族・家庭経営が重視されクローズアップされた時代を経て、家庭科の独自性が再検討され、現在は、前述の食・衣・消費者教育を中心に、家庭科のシラバスが構成されているところが多い。一方、特に日本の家庭科教育は、家族・家庭生活や消費者教育、生活スキルの修得と幅広い教育内容となっており、家政学は、主として科学性の見地からこれに貢献しているが、実践性の見地から、教育的・社会的貢献度を高めることが今後の課題である。
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