大学の教員養成課程在学の学生は、教育実習を通してどのように力量形成を図っていくのか。とりわけ、国語科の実践的知識をいかに獲得していくのか。これを明らかにすることが、本研究の目的である。 これまでの教師教育における実践的力量形成研究の多くは、教師が工学的システムの収得をいかに能率よく達成し、理論的知識を実践化していくかということを探究してきたのである。しかし、授業というものは、学校や授業が置かれている社会文化的文脈や、授業過程で起こる出来事の背後にある教師や子どもの歴史的内面的背景や認知の仕組みに大きく関係している。そのために、教師は、「理論的知識」を学んでそれをそのまま実践化しているのではなく、日々の授業実践や様々な日常経験の中で形成されてきた個性的かつ状況依存的な知識(「実践的知識」)を駆使して新たな実践を生み出している。 そこで教育実習生を取り巻く様々な出来事を物語(narrative)として構成し解釈していく「ナラティブ・アプローチ」という研究方法を採用して、教育実習生へのインタビューや、教育実習生自身による記録をもとに蓄積していき、西暦などによる「クロノジカルな時間」、教育実習に行く前と行った後などの時期区分に基づく「ライフサイクル的な時間」、教育界の動向など「社会史的出来事」にそくした「歴史的な時間」といった指標に基づく整理・解釈を行う。これは、「ライフヒストリー」的観点に基づく解釈である。 この結果、次のような結果が得られた。 (1)教育実習生のライフヒストリーにおいて、彼らの生き方や進路選択のありようが、教育実習への構えや教科の実践的知識への取り組みに大きく関わる。 (2)最初の実習では児童・生徒理解と彼らとのコミュニケーションに最大の課題があるが、2度目の実習では授業技術に深まりが見られる。 (3)国語科の実践的知識においては、とりわけ次の資質を育てる必要性がある。 1 単元のデザインの仕方 2 教材開発の仕方 3 評価の仕方 4 読むことはかなり大学の教科専門で内容を押さえているが、書くこと、話すこと・聞くことの領域の力が弱い。
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