本研究の目的は、どんな能力がL1(日本語)からL2(英語)へ、またはL2(英語)からL1(日本語)に移行するかを調べ、言語間に共通するライティング能力を特定することであった。本研究では、特に先行研究(小林・リナート、平成12年基盤研究C2研究報告書)の結果に基づき、高等学校で受けた日本語小論文訓練がどのように英語作文に影響するかを精査した。方法は、大学1年生の4グループ((1)L1とL2の両言語で訓練、(2)L1訓練のみ、(3)L2訓練みの、(4)訓練なし)、計28名から日本語と英語の作文とインタビューデータを収集し、プロダクトとプロセスの側面から分析した。その結果、日本語による小論文訓練は英語作文に確実に影響を与えていることが判明した。具体的には(1)日本語小論文訓練を受けた大学1年生((1)と(2))の英語作文は、受けていない学生((3)と(4))の作文より、序、本論、結論と全体の文章構成がしっかりしており、論理構成も反論を入れるなど、首尾一貫(coherence)の度合いが高い、(2)全体の構成やパラグラフ間の関係を示すディスコースマーカー(指標語句や接続詞)の使用が多い、(3)自分の意見や主張のサポートとして個人体験よりも一般的事実や観察を使う傾向がある。一方、日本語小論文訓練を受けていない学生の英語作文の特徴にはいわゆる感想文的な傾向や主張文でも個人体験を基にしているものが多くみられた。ライティングプロセスをボーズやインタビューによっても分析したが、以上の結果を裏付けている。さらに、日本語と英語の両言語による作文訓練を受けた場合は、相乗効果として英語作文の内容展開が質量ともに日本語のみの場合より優れていることも判明した。以上、日本語小論文訓練が特に論理構築に影響を与えている点から、すぐれた英語小論文を書くには日本語による小論文訓練を受けていることが有益であると強く示唆される。
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