本研究では、以下の4点に関して分析と検討を行った。 1.現在一般に行われている歴史学習における「固有名」の取扱いを、(1)学習指導要領を対象とした場合、(2)歴史教科書の記述を対象とした場合、(3)授業研究会などで試みられている歴史授業実践を対象とした場合、の各々について分析し、その特徴を明らかにした。そこでは特に「固有名」を有する事象が、構造や関係を理解させるための事例として扱われることの問題性、「興味・関心」を高めるための方策として扱われることの限界性に関する検討を行った。 2.歴史学習において用いられる言語使用の型を、言語学、歴史哲学、記号論、物語論等の知見を手がかりに分析フレームワークを設定した上で、「用語型」「普通名型」「固有名型」三つの類型に分類し、それぞれの類型から構想される得る歴史学習論を作業上の仮説として構成した。 3.上記の仮説から構成され得る歴史学習類型のうち、「固有名」を基軸に据えた歴史学習において想定される内容領域として、「語用論的内容領域」「統語論的内容領域」「意味論的内容領域」の3層からなる内容を構想し、各々を、前年度に事例として収集した各歴史授業において適用可能な内容構成論、指導論として定立することを試みた。 4.「固有名」の言語的、認知的特徴を踏まえた歴史学習指導論を具体化することを試み、若干の指導事例を類型的にモデル化した。 なお以上の成果は、研究期間内には公表できなかったが、報告書(冊子)にてとりまとめ中であり、学会誌投稿も準備中である。
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