研究概要 |
目的)今年度は当初研究目標第1項目である乳幼児が装用する補聴器の3形式(ポケット形,耳かけ形,ベビー形補聴器)について,聴覚障害乳幼児に話しかける母親の声[他声]と,聴覚障害乳幼児自身の声[自声]の2つの入力音声の収集・分析を行った。 方法)音声の収集にあたっては,3形式の補聴器のケースに補聴器用マイクのみを組み込んだもの(マイクユニット,以下MU)を3〜14ヵ月の乳幼児に装用させた。子どもの正面に母親に座らせ,母親には子どもが自然な発声をするような会話をするよう依頼した。MUからの出力をDATに録音し,パソコン上に取り込んだ。これより,まず声以外の雑音を排除し,さらに声を母親の声[他声]と乳幼児自身の声[自声]に分け,2つの音声ファイルを作成した。これを平均音声化処理を行った。 結果)ポケット形,耳かけ形,ベビー形補聴器による他声の入力スペクトルには大きな差は見られなかった。自声の入力スペクトルはポケット形>耳かけ形≒ベビー形であった。自他声差(=自声スペクトル-他声スペクトル)の検討では,耳かけ形MUの自他声差は5〜8dBほどであったが,ポケット形MUの自他声差は5〜18dBほどであり,ポケツト形自他声差>耳かけ形自他声差であった。耳かけ形MU,ベビー形MUの自他声差は共に5〜8dBほどであり,わずかにベビー形自他声差>耳かけ形自他声差であった。 考察)言語学習が他声を聞くことから始まること,感音性難聴の聴野の狭さ,ラウドネスの異常を含考するならば,自声と他声の音圧差が少ない方が言語学習のためには望まれる。つまり,自声を快適閾値域に入るよう補聴器のゲイン設定をした場合,自他声差が広いと他声に対するゲイン不足が起こる可能性がある。逆に他声に対して適切なゲインを確保した場合には,自声が快適閾値域を超える可能性がある。以上より自他声差の観点から,選択順として耳かけ形→ベビー形→ポケット形となり,耳かけ形補聴器の有利さが示唆された。
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