研究概要 |
目的)今年度は当初研究目標第2項目である補聴器の選択上の問題について,下記の2項の実験を行った。 1)残響時間を補聴器選択上の評価項目に追加することに関して 方法)SN比(-6,0,+6dB)と残響時間(0.8,0.4,0.0ms) [RASTI値0〜1]となる文リストを,健聴補聴器装用群と難聴補聴器装用群に聴取させ文章了解度を求めた。SN比0dB,残響時間0.4msに対して,好条件・悪条件となるSN比,残響時間にて主観的感想を5段階評価で答えさせた。 結果)健聴群と難聴群ともにRASTI値の向上と文章了解度の向上には相関が認められ,すなわち,SN比のみならず残響時間の向上も了解度の向上に貢献することが明らかになった。残響時間の向上は,特に難聴群において「聞きやすさ」の点で評価が高かった。 考察)従来,SN比のみを視点として補聴器の評価が行われてきた。残響時間が了解度,さらに主観的評価の向上で大きな貢献をすることがわかった。補聴器器種選択にあたっては残響時間を評価項目に追加する必要がある。 2)デジタル指向性マイク付きデジタル補聴器の評価について 方法)アナログ指向性,第1世代デジタル指向性,第2世代デジタル指向性,デジタル適応型指向性の4種マイクを持つ補聴器について,正面から単音節語音を,45°,90°,135°,180°,225°,270°,315°のすべての方向からノイズを提示し,補聴器のマイク再生音を録音し,健聴被験者を対象に明瞭度検査を行った。 結果)SN比の向上効果は,順に4.7,8.9,11.6,10.4dBであった。デジタル指向性マイクのSN比改善は,FM補聴器によるSN比向上は比肩しうるものであり,ノイズ抑制効果が大きいことが立証された。 考察)乳幼児に対して,従来はアナログ補聴器の処方が行われてきた。乳幼児の日常生活にも様々な雑音が生じていることが予想され,常時装用が困難なFM補聴器ではなく,デジタル指向性マイクを備えたデジタル補聴器によって対処することを考えていくべきだと示唆された。
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