本研究の目的は、以下の2点である。 (1)リズムの契機は、日本語話者と日本語学習者ではどのように異なるか。そのときの呼気圧、呼気流量はどのようであるか。 (2)持続時間が特徴的な学習者の発音は、日本語話者とは呼気圧、呼気流量にどのような違いがあるか。 実験1では、リズム契機とユニット長の関係を調べるため、日本語母語話者と日本語学習者(中国語)を対象とし特殊拍を含む音節を組み合わせた6語(たーたん、たーだん、たんたん、たんだん、たったん、さったん)を分析した。発話はメトロノームにあわせ1語につき10回収録し、呼気圧、呼気流量について分析した。結果は、全体長では日本語話者の方が長く、語中の破裂音の外破からメトロノームまでの時間は学習者の方が長いという特徴がみられた。特に呼気圧がより強いことが観察されたが、語頭の破裂音にはそのような傾向はなかった。このことは、呼気圧の影響がリズム契機を形成する違いに何らかの役割を果たしていることを示唆する。 実験2では、リズム配置の異なる18語を選定し、単独発話と「これは...です」というフレームに入れたものを発話資料とし、呼気圧、呼気流量の側面から分析した。発話者は中国語(北京語)話者2名、スペイン語話者1名、日本語話者2名で、KAY社製の「エアロホン」を用いて収録した。 この研究の特徴は、生理的な要因である呼気流量と呼気圧のピーク値が学習者では各語の特徴的な持続時間の開始点とどのような関係であるか、また日本語話者とどのように異なるかを分析する点にある。分析の結果、中国語話者では呼気圧のピーク時点が第3ユニットにきていること、流量は調音法によっても異なることが判明した。しかしながら、これまでの結果では、特に呼気圧、呼気流量の違いが持続時間の違いとなるという結論には至っていない。ただ、破裂音の閉鎖時間や発声の違いに影響を与えていることを示す結果となっている。
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