本研究は、論述文に代表される論文を主な分析対象とし、分野を超えて、論文に共通して使用される機能語句群を明らかにすることによって、最終的には論述文に代表される文章の論理構造を明示する機能語句群を確定することを目標とする。その結果、専門日本語教育における教材開発のための、より客観的な基礎的資料を提示することができ、教授法の改善に寄与できると考えられる。 本研究では、文章の論理構造を支える機能語句群を抽出する研究の一環として、7ジャンル(物理学論文、工学論文、文学論文、経済学論文、経済学教科書、近代文学作品、新聞社説)計151編の文章における62文型項目の出現率を調査した。この資料を対象に、単変量的解析、正準判別分析を行った結果、文章の所属ジャンルが、12の語句項目によって、正判別率77%という高率で判別されるとともに、各ジャンルを分離する語句項目ならびに論述的形式を持つ文章に共通する文型項目が選択された。この結果により、限定された資料内ではあるが、異なるジャンルの文章を判別するために、機能語句群が有効な指標であることが明らかとなった。さらに、より広い対象資料に対して検証を行う必要があるため、自然科学分野(応用物理、電気工学、情報処理)の論文100編に関する調査結果を追加して分析したところ、上記の結果を裏付ける結果を得ることができた。 一方、論文の論理構造をより詳細に見るために、論文を構成する3つの大段落(序論、本論、結論)ごとの機能語句をはじめとする文型115項目の使用頻度の傾向を調査した。対象資料は、論理性が強いと考えられる自然科学分野から物理学論文と工学論文を選んだ。調査の結果、論述文を支える3つの柱である「並列「対比」「因果」に属する文型(含機能語句)は頻度が高いものが多く、さらに、3つの大段落に共通して頻度が高い項目が存在し、大段落間で頻度に特徴的な差異を有する項目があることがわかった。
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