研究概要 |
確率過程に対する統計推測の漸近理論に必要な,統計量の分布の漸近展開の研究を行った.具体的には,1.パーシャル・ミキシング過程の漸近展開理論の研究と,その応用として,強定常確率過程を説明変数にもつ確率回帰モデルの未知パラメータの分布の推定量の漸近展開を導出した.この展開式の2次項は,説明変数の強従属性による非中心極限定理に関係し,通常のT^{-1/2}乗オーダーでなく,ハースト指数に拠ったオーダーになる. 2.条件つき漸近展開とその実装.抽象的なマリアヴァン作用素が与えられた確率空間上の汎関数に対して,渡辺理論の部分的拡張を最近行った.ジャンプ型の汎関数に対する漸近展開および条件付漸近展開が可能となるが,本研究ではそれをフィルタリング問題に適用し,計算機で展開式の計算を行うアルゴリズムを作った. 3.非同期観測データに基づく拡散係数の相関係数の推定量の構成.ファイナンスにおいて,複数のセキュリティの確率過程のボラティリティ間の相関を推定する必要が生じる.実際のデータはそれぞれのセキュリティが売買の起こったときに価格が観測されることから,非同時観測時点でのデータしか得られないため,通常の2次変動型推定量は適用できない,この問題に対して,新しい概対角型2次統計量を構成し,その一致性を証明した. 4.ジャンプ型確率微分方程式の離散観測に基づくM-推定量の構成,一致性,漸近正規性および漸近展開の導出. 5.ジャンプ型確率ボラティリティモデルに対する漸近展開.証券の対数収益率を,レビ過程で駆動されるオルンシュタイン・ウーレンベック過程を拡散係数にもつ確率ボラティリティモデルとして表現することが行われている.この確率ボラティリティモデルからの離散時間観測において,その時間間隔が大きくなれば,増分が正規分布に従うこと(アグリゲーション・ガウシアニティ),および間隔が短くなれば,正規分布から乖離することが知られている.この現象の説明が,その増分の分布の漸近展開を行うことによって可能となった.筆者らが以前発表した,確率微分方程式の解として定義される汎関数に対する漸近展開の一般理論を適用し,漸近展開の正当性(validity)も証明した.このモデルの構造から,エッジワー展開の係数が陽に表現でき,応用し易い展開式が得られた.
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