本年度の研究成果は大きく三つに分けられる。 1.非劣性、同等性検証への多重決定方式による接近法 被験薬(新薬)の対照薬に対する比較臨床試験では、 非劣性検証、帰無仮説:H_0:μ_1-μ_2=-δ;対立仮説・H_1:μ_1-μ_1>-δ、 および 優越性検証、帰無仮説:H'_0:μ_1-μ_2=0;対立仮説:H'_1:μ_1-μ_2≠0、 を同時に検証する問題に興味が持たれる。この二つの検定の有意水準を、日本の旧厚生省ガイドラインでは同じ0.05としていたのに対し、2000年以降は国際ガイドラインに従って、非劣性検証のみ有意水準0.025に改められた。この改定は実際に新薬開発およびその行政に大きな影響があるにも関わらず、十分な議論の無いままに行われた。そこで本研究はこの問題を理論的に追及し、臨床試験の結果に応じて、 弱い非劣性:μ_1-μ_2【greater than or equal】-δ;強い非劣性:μ_1-μ_2>-δ;同等以上:μ_1-μ_2【greater than or equal】0;優越性:μ_1-μ_2>0 と主張の強さを変更する多重決定方式を導き、旧厚生省ガイドラインと国際ガイドラインを同時に正当化することに成功した。 2.用量・反応パターン推測 用量・反応解析において、曲線の推定ではなく、予め定義した興味ある用量・反応パターンを推測するという新しい視点から現状の不備を指摘し、新しい可能性を示した。 3.生命科学と統計科学 生命科学における統計科学の役割を論じ、過去の評価をするとともに今後の展望について述べた。
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