本年度は、1)ユースケース図からペトリネットの生成、2)ペトリネットからIDEFOダイアグラムの生成、3)ペトリネットからERモデルの生成、の3つのサブテーマを実施した。 ユースケース図は、アクタとユースケースの静的な関係しか表さない。一方ペトリネットは処理の流れを表す。そこで、それぞれのユースケースをペトリネットのトランジションに対応させ、アクタやユースケースの入出力データをトークンとして捉える。データの定義と参照の関係から、処理の順序が明示される。またアクタもトークンと捉えることで、それぞれの処理に誰が関わるかが明示される。 ペトリネットのトランジションをIDEFOのアクティビティに対応させる。そしてトランジションの入力トークンをIDEFOのInput、Control、Mechanismのいずれかに対応させる。入力データがその処理においてどのような役割を持つかによって、どれに対応するかが決まる。最後に対象とする処理の流れ全体を統括するアクティビティを追加することで、視点の明確なIDEFOダイアグラムとなる。 最初からIDEFOダイアグラムを作成しようとすると、多くの線が複雑に交錯する図になりがちである。しかし、ユースケース図とペトリネットを用いて順を追って処理を考えることで、比較的単純でわかりやすいODEFOダイアグラムを生成することができる。以前に手作業で作成したIDEFOダイアグラムと同じものを、本研究の手順に従って再作成してみた結果、前述のことが立証された。 本年度当初の予定では、IDEFOダイアグラムからERモデルを生成する予定であったが、IDEFOはきわめて独自性が高いので、ERモデルへの変換は容易ではないことが判明した。そこで、ペトリネットからERモデルを生成することとした。この場合、トークンをエンティティタイプとし、トランジションをリレーションシップタイプとすることで、機械的にERモデルを生成することができる。ただし、リレーションシップタイプの命名と、冗長なリレーションシップタイプの削除は手作業で行う必要がある。 本年度の研究の結果、複数の視点の統合にペトリネットが有用であることが明らかになった。ただし、ペトリネット上にすべての情報が表されるわけではないので、統合モデルではない。あるモデルから別のモデルへ変換する際のある種のフィルタの役割を果たしている。本研究を含めて、従来の多くの研究が統合モデルを目指してきたが、むしろ、多様なモデルがフィルタを介して変換されるという考えのほうが、より現実的であるという見通しを得た。
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