研究概要 |
本年度は、(1)NK地形をタンパク質の適応地形のモデルと考えて,この地形上での遺伝アルゴリズムによる解探索の特性についてコンピュータ・シミュレーションによって解析を試みた.(2)タンパク質の現実の適応地形を調査するために、アミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)のアミノ酸特異性を改変する遺伝学的実験によってを行った。 (1)タンパク質の実際の適応度を計算するための評価関数は知られていない.タンパク質全長Nとアミノ酸間の相関を与えるKを固定した上で,NKモデルに合致する評価関数を様々に作成して,最適解の探索に最適な突然変異率、交叉率(一点交叉)を得て比較した.その結果,最適な突然変異率,交叉率は評価関数の具体的な形に大きく依存しないことがわかった.このことは,関数の具体的な形を知らなくても,生物学実験でタンパク質を進化させるための適当なパラメータが予測できることを示唆している.ただし、シミュレーションではNの値が6前後であり,実際のタンパク質(鎖長>100)について何かを予測することは今後の課題である. aaRSについて実際の地形を調べるには,多数の変異aaRSの活性を調べる必要がある.従来の研究では、野生型タンパク質の近傍の地形を調べることが行われていたが,本研究では基質の特異性の変化した変異aaRSを遺伝学的に単離し,野生型から変異体の間の地形を調査するという手法をとっている.理由は、既に「解」(=野生型タンパク質)の得られている空間の近傍を調べるのでは,解探索法としての遺伝アルゴリズムの働きを検証することができないからである.遺伝学的な実際の実験によって,16,000個の変異aaRSをスクリーニングし,特異性の変化した変異体を2種類得ることができた.野生型とこれらの変異とのハミング距離は2〜3であったので、野生型と変異体を含む領域については地形の詳しい調査が今後可能性である。
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