研究概要 |
人工進化法によるタンパク質の機能改変に,遺伝アルゴリズム(GA)を適用するために,DNA分子を用いた実装が可能な最適化アルゴリズム(GOP,=GA Operation for Protein engineering)をデザインした.タンパク質の人工進化では1種類のタンパク質遺伝子が最初の世代を構成するという特殊な条件があるのが,GOPはこれを考慮して「やきなまし法(SA)」のメカニズムを取り入れている.最初に,GOPの最適化アルゴリズムとしての性能の評価をコンピュータ実験によって行った.Kauffmanの提唱しているNKモデルをモデル地形とし,その上で最適値を探索した.変異率は低いレベルで固定して,おもに適切な交叉の様式と交叉頻度の検証を行った.子の選択はSAに基づくものを,単純な「山登り」法によるものと性能を比較した.NKモデルでは,ある遺伝子の適応度に対して遺伝子内の部位間の相関がどの程度寄与するかを調節することができる.期待通り,SAによる選択と,あまり高頻度でない1点交叉法の組み合わせは.遺伝子座間の相関が高い場合にも良い性能を示した.1種類の遺伝子によって最初の世代を構成したが,SAのメカニズムを取り入れることで,十分に遺伝子の多様性が生じることがわかった.コンピュータ実験によってGOPのアウトラインが得られたので,実際にタンパク質の人工進化に応用するための遺伝オペレータの実装法を検討した.コンピュータ実験の結果からは,1点交叉法が望ましいことがわかったが,分子生物学の分野では多点交叉法しか開発されていなかったので,1点交叉法の開発を行って遺伝子の全長わたってランダムに交叉させることに成功した.以上のGOPの開発とその実装法の検討を行う一方で,タンパク質の人工進化を実際の遺伝子を用いて進めて,得られたタンパク質の構造解析や,変異体ライブラリーの作製も行った.
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