研究概要 |
・目的:今回われわれは側頭葉の限局萎縮例における萎縮の左右差による症状の違いから左右側頭葉の機能分化に関する検討を試みた。 ・対象者:頭部MRI及びSPECT、神経心理検査から、Neary et al.(1998)の意味痴呆(semantic dementia : SD)の診断基準に合致した9例を対象者とした。側頭葉の萎縮は全例両側に及び、5例は左優位の萎縮を、また他の4例は右優位の萎縮を呈していた。それぞれSD-L群,SD-R群とした。 ・結果:(1)言語機能に関する比較 言語機能に関しては標準失語症検査(SLTA)並びにカテゴリー別に80種の線画ならびに10種の色見本を用いて呼称と理解を調べる検査(伊藤ら,1994)を施行した。SLTAの結果からは、呼称・理解・漢字の読み書きで障害がみられ、復唱・仮名の操作・計算能力が保存される共通の障害パターンが両群で認められたが、定型的な語義失語像を呈するSD-L群では口頭命令、短文理解、漢字の読み書きや理解など多くの項目でより重度の低下を示した。一方マンガの説明に関してはSD-R群の方が低い成績であった。線画の呼称と理解の課題においては呼称成績の低下がSD-L群で目立ち、SD-L群の特徴としての喚語困難が示されてた。理解に関しては共にカテゴリーに特異的な成績低下を認めたが、両群間の差は明らかでなかった。 (2)知能に関する比較 知能に関してはWAIS-Rを施行し、結果を比較した。SD-L群,SD-R群の総IQは77.6:72と全般に成績の低下が認められた。SD-L群では語義失語の影響が強いと考えられる言語性検査の成績低下に対して、その影響を受けることが比較的少ない動作性検査では成績低下がごくわずかにとどまった(VIQ=69,PIQ=91.2)。一方、語義失語の程度が比較的軽いSD-R群では、言語性検査、動作性検査ともに成績は低下していた(VIQ=75,PIQ=71)。 ・結論:以上の検討から語義失語の程度が重篤なSD-L群と非言語性知的機能の障害を有するSD-R群という対比が明らかとなり、左右の側頭葉の機能分化を示唆する結果となった。
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