研究概要 |
・目的:左右側頭葉の機能分化に関する基礎的検討として2種類の補完課題を用いて側頭葉の限局萎縮例における萎縮の左右差と表象の認知に関する比較検討を試みた。 ・対象者:意味痴呆(semantic dementia : SD)の診断基準に合致した6例を対象者とした。SD例の側頭葉萎縮は全例両側に及び,3例は左優位の萎縮を,また他の3例は右優位の萎縮を呈していた。それぞれSD-L群,SD-R群とした。 ・方法:言語および視覚表象の保存の有無について2種類の補完課題を用いて比較検対した。言語性表象に関しては,被験者によく知られた諺の始めの句を聴覚提示し,ひきつづき諺を完成させるよう求める諺補完課題を,また視覚性表象に関しては,日用品の部分写真に相応しい残りの部分を選択肢の中から照合させる視覚性補完課題を新たに開発し用いた。また補完に用いた諺の定義を述べる課題と視覚性補完に用いた物品の呼称課題を実施した。 ・結果と考察: (1)言語表象の貯蔵に関する検討 諺の定義課題においてはいずれも著しい低下を示した。一方諺補完課題において。SD-L群はSD-R群と比較し,補完現象の消失が著明であった。諺の意味理解という高度な意味判断の課題では両群とも著しい低下を示したが。成句の表膚部ないし形式的側面である諺の音韻表象に関して両群に差がみられ。SD-L群における音韻性表象の喪失が顕著であった。 (2)視覚表象の貯蔵に関する検討 物品の部分写真の呼称課題は両群とも著しい低下を示し,ともに失名辞を呈していた。しかし物品補完課題では、SD-R群の成績低下が一層明白であった。SD-R群では一部分の視覚情報から全体を認知するために必要な視覚性表象の喪失が示唆された。 ・結論:左側頭葉前方部は言語性表象の貯蔵に,一方右側頭葉前方部は視覚性表象の貯蔵にそれぞれ密接な関連を持つことが示唆された。
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