研究概要 |
1.語義失語と表層失読について ・目的:欧米では不規刻な読みの語を規則的に読み誤る表層失読が意味痴呆において報告されている。わが国では漢字に特有の読み誤りを生じる類音的錯読が典型的な語義失語において観察されている。語義失語例における表層失読の有無を検討する。 ・方法:典型的な語義失語像を呈する左優位側頭葉前方部萎縮例において、読みの一貫性と頻度を統制した熟語の音読課題を施行した。 ・結果:音読成績は読みの一貫性が乏しくなるに従って有意に低下し、その傾向は低頻度語で顕著という表層失読のパターンを示した。 ・結論:左側頭葉優位の萎縮例にみられる典型的な語義失語例における漢字の読み誤りは、表層失読によるものである。 2.意味痴呆における語彙再獲得の可能性について ・目的:側頭葉限局性萎縮による意味痴呆では、複数記憶システムの一翼を担う意味記憶が選択的に障害される。意味痴呆において比較的早期に残存する機能を利用した、語彙の再獲得を目指す訓練を試みた。 ・対象者:意味痢呆(semantic dementia:SD)の診断基準に合致した側頭葉限局萎縮例7名を対象者とした。SD例の側頭葉萎縮は全例両側に及び,4例は左優位の萎縮を,また他の3例は右優位の萎縮を呈していた。 ・方法:自宅にてカテゴリー別の線画を用い呼称・書字・指示によるドリルを施行した。任意の1カテゴリーから開始し、習得が確認でき次第カテゴリーを漸増した。 ・結果:訓練成果には個人差があり、訓練前の指示課題の成績ならびに、側頭葉萎縮の左右差が成績や課題遂行に影響を及ぼすことが示された。訓練の成果が高かったのはいずれも左優位例で、右優位例の場合自宅でドリルに取り組む意欲が総じて低く、訓練への導入に困難を極めた。認知機能のみならずコミュニケーションに関する全体的行動についても左右側頭葉の異なる関与が示唆された。
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