1.海馬CA3-CA1神経回路網モデルにおける時系列学習 入力信号によって海馬CA3神経回路網に形成されるニューロン活動の放射状伝搬を用いると、CA1神経回路網で時系列学習ができることを明らかにした。 具体的には、CA3とCA1から成る2層の神経回路網モデルを構築し、CA3神経回路網の反回性興奮結合とシャファー側枝シナプスがSTDPルールに従って変化するようにした。これらの神経回路網をそれぞれ4つのサブ領域に分け、20ms間隔で順にθバースト信号を入力した。まず、CA3神経回路網の4つの刺激部位からニューロン活動の放射状伝搬が起きた。これらの放射状に伝搬する興奮波の半径は刺激後の時間に依存するので、時系列情報がCA3活動のダイナミカルな空間パターンに変換されたことになる。このとき、興奮波上のCA3錐体細胞と貫通路入力を受けているCA1錐体細胞をつなぐシャファー側枝シナプスが選択的に強化された。これは、海馬CA3-CA1神経回路網モデルで、入力信号の時系列学習ができたことを示している。 2.歯状回神経回路モデルの構築とシータリズム選択性 海馬への入力層である歯状回はθリズムを選択的に通過させる。しかし、その機構はまだよくわかっていない。そこで、このフィルタ特性を説明できる歯状回神経回路モデルを提案した。 本歯状回神経回路は、2個の顆粒細胞、2個のバスケット細胞、および2個の苔状細胞から成る。苔状細胞にランダム入力を加え、顆粒細胞には0.1〜20Hzの周期信号を加えた。ランダム入力に対する苔状細胞の発火は、バスケット細胞を経由して、貫通路からの低周波信号に対する顆粒細胞の応答を抑制した。一方、貫通路からの周期信号によるバスケット細胞の発火は、貫通路からの高周波信号に対する顆粒細胞の応答をフィードフォワードに抑制した。その結果、本歯状回神経回路モデルは、θ周波数帯域の信号を通すバンドパスフィルタ特性を示した。
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