巡回セールスマン問題(TSP)に対してDorigoは蟻のコロニーでの活動にアナロジーをもつアシトシステムアルゴリズムを提案した。そこではシンプルな能力を与えた蟻のエージェントを計算機上に実現し、そのエージェントによって問題の解決をはからせる。しかし、そのアルゴリズムで構成されるアントエージェントでは実用的問題に対してクオリティーの高い解を求める能力はなく、また、コロニーとしてエージェントの集合体をあつかうため多くの計算時間を必要とする。そこで、本研究ではこのフェロモン情報に替わるマルチエージェント間コミュニケーションの新たな手段を模索し、有効かつ実用的な組合せ最適化に対するエージェント技法を開発する。同時に、多くのメタヒューリスティック技法に対して、確率過程の理論を用いそれらの有効性の理論的検討を行う。 本年度は、本アルゴリズムにおいて異なる思考を持ったエージェントによって集団を構成し、より優位な問題解決手法の構築を提案した。具体的には、フェロモン強化タイプ、負のフェロモン型、局所探索能力型エージェントを導入することにより多様性を増したコロニーを形成し有効なアルゴリズムを開発した。また、並列処理における有効なエージェント技法の開発についても検討をおこなった。さらに、アルゴリズムの性能を比較するため、確率的解析による理論的分析の検討を進めた。すなわち、解空間を確率空間と見た場合、その上での解の変化を確率過程モデルにあてはめ有効なモデルを構築した。特に、定常確率過程の一つの部分タイプであるAR(1)モデルが広く組合せ最適化問題における空間上の統計をうまくとらえることが可能であり、そこから近傍解の相関係数が見積もられ多くの統計量が推測されるものと考える。それにより求まる解、および必要ステップ数を予想し、アルゴリズムの収束性の特性を検討した。
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