1 成果のうち最大のものは、公保険と私保険の選択に関わる問題である。ニュージーランドにおける人身事故に関する世界最初の無過失責任に基づく包括的社会保険(事故補償制度)の一部民営化、そしてその後の再国有化という歴史的な経験を目の当たりにし、その事実と関連する議論に接したことである。 人身被害との救済について、社会保険と私保険のどちらに救済の実効性があり、どちらが効率出来かという議論が続いたが、ニュージーランドの経験に学べば、世界的なトレンドである民営化も、分野によっては必ずしもコスト節約的ではないこと、事務効率を上昇させるものでないことを認識した。詳細については、浅井「効率的運用とは何か--ニュージーランド事故補償制度一部民営化の経験から」(2004年3月・名古屋大学法政論集201号643〜666頁)に述べた。今後も検討を続けるつもりである。 2 かねてより、自動車損害賠償保障法の下での政府保障事業の意義と現実の運用に関心があった。比較のため、イギリスの道路交通法の下で運用される補完的保障事業Motor Insurance Bureau(MIB)を検討した。結果、ひき逃げ、無保険車の事故による被害者の救済の他、損害賠償訴訟に携わる弁護士への援助がなされる等、この制度はわが国における政府保障事業とはいくつかの点で異なることが理解された。 3 小野の行ったゲーム理論による分析でも、大きな差異はでていない。 今後は、現在の制度の維持改善と抜本的な制度改革の二つの選択肢で、分析・考察を続けるべきことが分かった。
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