研究概要 |
顧客ニーズの多様化が進むにつれ,企業経営の一手法としてサプライチェーンマネジメント(以降,SCM)が脚光を浴びている.SCMに含まれる経営主体は多種多様であり,その効率的運用にはサプライチェーン全体を複雑系として捉えた解法が必要となる.そして本研究では,サプライチェーンにおける商取引の裁定方法としそマルチエージェントパラダイムに従う複雑系仮想市場の適用を進めている.今年度は主に,複雑系仮想市場を構成する経済主体(エージェント)基本取引モデルの定式化(ステップ1)と,小規模な複雑系,仮想市場モデルによる基本取引の基礎実験(ステップ2),について取り組んだ. ステップ1において,複雑系経済学に基づく仮想市場を構築する際,まず重要となるのが市場を構成するエージェントの定式化である.複雑系仮想市場において市場を構成するエージェントは,財の生産と消費に直接関わる需要・供給エージェントと,それぞれのエージェント群が提示する需要・供給価格の裁定を行う仲介エージェントの3種類に分類される.そして計算機上に仮想市場を構築する際,まず需要・供給エージェントがそれぞれの効用を市場に提示した後,提示されたそれぞれの効用から仲介エージェントが相対取引を行いながら取引を裁定するが,需要・供給エージェントの有する戦略と仲介エージェントの裁定法により仮想市場の特性は大きく異なる.そこで,まず現実の経済市場における協調特性について現状調査・解析を行い,その解析結果をもとに基本的な取引戦略の定義を行った.さらに,近年の情報通信技術がもたらす情報の迅速な収集・伝達と高度な処理に対応するものとして,仮想市場を構成する各エージェントに情報獲得と作用の速度・範囲というパラメータを含んだ形での定式化を進めた. 次にステップ2では,ステップ1で行った定式化にもとづいて,小規模な複雑系市場を対象とした商取引行為の基本アルゴリズムを提案し.さらに基礎実験モデルとして計算機上に小規模な複雑系仮想市場を構築し,計算機実験により構築した仮想市場モデルに対する妥当性について検証を行った.
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