研究概要 |
医療事故の問題が深刻になるにつれ,多くの病院では医療事故の記録をとり,事故現象の把握に務めるようになってきた.しかしながら,その事故記録の解析方法が確立されておらず,せっかく収集した事故の情報を対策まで結びつけることができていないのが現状である.このような事故記録の解析には,品質管理の分野で用いられる問題解決や改善のための方法論が有用と考えられるが,医療従事者はそのような教育を体系的に受けておらず,また改善活動の経験が少ないために活用されていない. 一方,工業における品質管理の分野では,作業ミス,製品の安全性,PL問題,航空機事故などの問題に対してこれまでに様々な取り組みがなされており,一定の成果を収めてきた実績がある.これらの問題と医療事故は多くの似た側面があり,これらの経験を通じて得られた問題解決や改善のための方法論は,医療事故の減少のために有用と考えられる.本研究では,医療行為の特性を考慮しつつ,品質管理の分野で開発されてきた問題解決と改善のための方法論を医療事故に適用し,減少させることを目的とした. 今年度は,投薬ミスの問題に主に取り組んだ.まず,各病院の投薬に関する標準プロセス,変更管理の手順を調査した.その標準プロセスをもとにプロセスに沿った形でミスを記述できる形式にした事故報告書の書式を作成し,事故データを収集した、また,主に投薬の標準プロセスと実際に行われた作業の関係に着目して事故データを分析し,事故の原因を明らかにした.さらに,対策案の候補を挙げ,医療者側と実施可能性を議論し,エラープルーフ,ミス検知方式などのミス防止の方法論,工程管理,変更管理,設備管理などの管理方式の適用可能性について検討した、その結果,事故事例の分析方法,レポーティングシステムの提案を行うとともに,いくつかの対策案を実施し,事故防止に効果があることを検証した.
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