寡占市場における販売競争を考える。市場状況が変らない限り、同様な競争が繰り返されるが、市場状況が変化したり、各企業の個別的事情が変ると、同様な競争は終了し、新たな状況下での競合状態に移行する。このような問題を、戦略に依存した停止確率行列をもったn人非ゼロ和繰り返しゲームとしてとらえる。停止確率行列を知っているかどうかについて、企業間に情報格差がある場合、情報優位企業が劣位企業に情報を教えることによって事態を自分に有利な方向へ誘導することが考えられる。これを情報操作と呼ぶ。この不完備情報動学ゲームにおける情報操作問題につき、本年度以下の知見を得た。 (1)この情報操作問題を、不完備情報n人非協力非ゼロ和繰り返しゲームとして定式化した。 (2)この繰り返しゲームにおける完備情報の場合のナッシュ均衡点は、繰り返しゲームから生成されるある一段階非ゼロ和ゲームのナッシュ均衡点として求められることを示した。 (3)不完備情報の場合、各情報操作に対応する繰り返しゲームのナッシュ均衡解を(1)を用いて求め、その中から情報優位企業の期待利得を最大にするものを選ぶことにより、最適情報操作が求められることを示した。 (4)情報操作の価値を、それによる誘導効果(教えることによる自分の期待利得の増加分)として定義した。 (5)企業のもつ価値志向性のうち、効用関数で表される個人的価値志向性を考慮して、数値実験により、個人的価値志向性が最適情報操作に与える影響について、いくつかの傾向を把握した。たとえば2人プレイヤーの場合、情報優位者の個人的価値志向性が両者によって同じ傾向に判断されている時には、あまり情報を与えないのが得策である。 今後は、社会的価値志向性の影響、価値志向性に対する学習プロセスを明らかにして行きたい。
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