研究概要 |
本研究の目的は、中性子のスピン干渉現象を応用して、京都大学原子炉実験所で開発した中性子多層膜スピンスプリッターのギャップ層に水素吸蔵物質を用い、水素雰囲気の圧力を変化させて薄膜状水素吸蔵物質の水素吸蔵量の変化を精密に測定することである。この多層膜スピンスプリッターを水素雰囲気中に置くことにより、水素吸蔵物質に水素が吸蔵されると屈折率が変化し、その結果スピン干渉縞がシフトするが、このシフトから、吸蔵された水素量が精密に測定できる。本年度は、昨年度の結果に基づいて、まず、水素吸蔵物質をSi基板上に真空蒸着し、水素雰囲気中での中性子反射率を測定して、その結果を解析し、水素吸蔵物質中での水素の分布・水素雰囲気の圧力変化に伴う吸蔵水素量の定量を行った。用いた試料はPd,LaNi.Al,TiCrVの3種類の物質であるが、Pdでは0.02MPaというわずかな水素圧力変化でも吸蔵水素量が変化することが観測された。さらに水素の分布は表面で少なく(雰囲気0.02MPaの場合、H/Pd原子数比で0.4)、Siに近い側で多い(先ほどの条件の場合、H/Pd比で0.7)であることが見出された。また、他の2種類の合金では、0.3MPa以下の水素雰囲気圧力では明瞭な水素吸蔵は確認できなかった。真空蒸着の際の組成ずれや熱処理が原因ではないかと考えられる。この結果に基づき薄膜化Pdを用いて多層膜スピンスプリッターを製作したが、磁気ミラーの不調で干渉実験ができなかった。これについては近く再実験を行う予定である。さらに、Mieze法による非干渉性散乱に対応した中性子スピンエコー装置についても、3つの高周波共鳴スピンフリッパーを組み合わせ、バナジウムを用いた基礎データの取得に成功し、固体中での水素挙動の精密測定に道が開けた。
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